コラム

不妊治療における先進医療

不妊治療の分野では、日々新しい技術や治療法が開発され、患者様により良い治療選択肢を提供できるようになっています。先進医療として認められた技術や治療法は、保険診療と組み合わせて行うことが可能で、不妊治療の成功率を高める可能性があります。
今回は、不妊治療における先進医療について、その概要から当院での取り組みまでをご説明いたします。

1. 先進医療とは

先進医療とは、厚生労働大臣が認める高度な医療技術を用いた治療法のうち、一定の有効性と安全性が確認されているが、まだ保険適用には至っていないものを指します。

原則、保険診療と自費診療を同時に行う「混合診療」は禁止されています。しかし、「先進医療」については例外的に保険診療との併用が認められています。これにより、患者様は基本的な体外受精や顕微授精などの生殖補助医療(ART)を保険の3割負担で受けながら、さらに効果的な先進医療技術を全額自己負担で追加することができます。

先進医療は国がその安全性や効果性を認めた技術や治療方法であり、不妊治療中の皆様に安心してお受けいただけます。

2. 先進医療のメリットと注意点

メリット

1. 不妊治療費用の軽減効果 
先進医療は保険診療と併用できるため、基本的な体外受精や顕微授精部分は3割負担となり、全体的な治療費用を抑えることができます。さらに、各自治体の助成金制度を活用することで、経済的負担をさらに軽減することが可能です。

2. 有効性・安全性の高い治療を受けられる
先進医療として認められた技術は、国が厳格な審査を経て承認したものです。十分な科学的根拠に基づいており、安心してお受けいただけます。

3. 妊娠成功率の向上が期待できる
従来の標準的な治療に加えて、より精密で効果的な技術を組み合わせることで、妊娠率の向上や流産率の低下が期待できます。

注意点

先進医療部分は全額自己負担となるため、追加費用が発生します。また、すべての患者様に同じ効果が保証されるわけではないため、医師との十分な相談のもとで治療選択を行うことが重要です。

3. 代表的な先進医療

当院で実施している主な先進医療技術をご紹介します。

タイムラプスインキュベーター

タイムラプス技術を用いることで、これまで1日1回程度だった胚の形態学的評価を、インキュベーターから出すことなく培養中に何度でも行うことが可能になります。この継続的な観察により、より良い胚を選択して移植することができ、妊娠率の向上が報告されています。当院では全症例でタイムラプスインキュベーターを使用し、大切な胚をお預かりいたします。

詳しくは こちら も覧ください。

IMSI(強拡大顕微鏡を用いた形態学的精子選択術)

従来の400~500倍の顕微鏡に対し、6000倍の強拡大顕微鏡(従来法の12倍)を用いることで、より形態の良好な精子を選び出すことができます。これにより、顕微授精(ICSI)における妊娠率の向上や流産率の低下が期待できます。

PICSI(ヒアルロン酸を用いた精子選択術)

自然妊娠では、成熟した精子だけが卵子の周りにあるヒアルロン酸という物質にくっつくことができます。この性質を利用し、ヒアルロン酸に結合しやすい成熟精子を選別することで、DNAの損傷が少ない質の良い精子を卵子に注入する技術です。IMSI同様に、妊娠率の向上や流産率の低下が期待できます。

Zymot(膜構造を用いた生理学的精子選択術)

元気で泳ぎ方が上手な精子だけが通ることのできる特殊なフィルターを用いて、良好な精子を選別する方法です。従来の遠心分離を行わないことで、精子への物理的ダメージを抑えることができるとされています。

SEET法(子宮内膜刺激胚移植法)

採卵時に胚盤胞に成長させるのに使用した培養液を胚と共に凍結保存し、移植の2~3日前に子宮腔内へ注入する方法です。自然妊娠と同様のシグナルを子宮に届けることで、子宮内膜が「受精卵を迎える準備」を始め、より着床しやすい子宮内膜の状態を作り出すことで妊娠率の向上を促進します。

子宮内膜スクラッチ

子宮内膜にあえて小さな傷を作り、傷の修復のために分泌されるサイトカインの働きを利用して、着床しやすい子宮環境を生み出す方法です。胚移植前に実施することで、妊娠率の向上が期待されています。

ERA検査(子宮内膜着床能検査)

胚を受け入れるための子宮内膜の準備が整うタイミングである「着床の窓」を調べる検査です。状態の良い胚を用いても、胚移植のタイミングが12時間ほど着床の窓とずれただけで胚が着床できないことがあることが研究により明らかになっています。この検査により、最適な移植タイミングを見極めることができます。

詳しくは こちら もご覧ください。

EMMA/ALICE検査

EMMA検査(子宮内膜マイクロバイオーム検査) 子宮内膜に存在する細菌の種類と量を調べる検査です。子宮内膜の乳酸桿菌の割合が妊娠に大きく関わるとされており、検査結果が乳酸菌優位でない場合は適切な治療をご提案いたします。

ALICE検査(感染性子宮内膜炎検査) 慢性子宮内膜炎を起こす細菌を調べる検査です。慢性子宮内膜炎は、不妊症患者では約30%、習慣性流産や着床不全患者では約70%に関係していると言われており、検出された病原菌に対する治療をご提案いたします。

TRIO検査

ERA、EMMA、ALICE検査の3つを合わせた検査で、1度の検体採取で実施することが可能です。子宮内膜の状態を総合的に評価し、着床環境の改善につなげることができます。

4. 先進医療への助成金

各地方自治体において、先進医療に対する助成金制度が設けられています。制度の内容は自治体によって異なるため、治療を始める前に確認されることをお勧めします。

東京都特定不妊治療費(先進医療)助成事業(2025年現在):
先進医療を保険診療(体外受精・顕微授精)と併せて実施した場合、1回の治療につき自己負担額の7割まで、上限15万円までが助成されます。助成回数は保険診療に準じます。
詳しくは こちら をご覧ください。

お住まいの自治体の助成制度については、各自治体にご確認ください。

5. 当院での取り組み

当院では、患者様一人ひとりの状況に合わせて、最適な先進医療技術をご提案しています。すべての技術を画一的に適用するのではなく、年齢、治療歴、これまでの検査結果などを総合的に判断し、本当に必要で効果が期待できる先進医療を選択いたします。
先進医療は、不妊治療の成功率向上を目指す皆様にとって心強い選択肢の一つです。国が認めた安全で効果的な技術であり、保険診療と組み合わせることで、経済的負担を抑えながら最新の治療を受けることができます。

妊活は身体的にも精神的にも大きな負担を伴う場合があります。当院では、患者様お一人おひとりに寄り添い、最適な治療選択肢をご提案することで、皆様の妊娠への道のりをサポートいたします。

先進医療について詳しく知りたい方、治療に関するご相談がある方は、どうぞお気軽に当院までお問い合わせください。経験豊富なスタッフが、皆様のご質問に丁寧にお答えいたします。

6. よくある質問

先進医療は誰でも受けることができますか?

先進医療は、患者様がご希望され、医師がその必要性を認めた場合に実施されます。すべての方に適用されるわけではありませんが、治療効果が期待できる場合にご提案いたします。

先進医療の費用はどのくらいかかりますか?

技術によって費用は異なります。詳細な費用については下記をご覧ください。

先進医療を受ければ必ず妊娠できますか?

先進医療は妊娠率の向上が期待できる技術ですが、100%の成功を保証するものではありません。患者様の状態により効果は異なります。医師と十分にご相談の上、治療選択を行ってください。

保険診療だけでは妊娠は難しいのでしょうか

保険診療の体外受精や顕微授精でも多くの方が妊娠されています。先進医療は、さらなる妊娠率向上を目指す追加オプションとお考えください。

他院で治療を受けていましたが、先進医療だけを当院で受けることは可能ですか

申し訳ございませんが、先進医療は基本的な体外受精や顕微授精と併用する必要があります。当院での総合的な治療をお受けいただくことになります。

7. 料金

  • タイムラプスインキュベーター
    33,000円
  • IMSI
    22,000円
  • PICSI
    22,000円
  • Zymot
    25,300円
  • SEET法
    33,000円
  • 子宮内膜スクラッチ
    27,500円
  • ERA検査
    132,000円
  • EMMA/ALICE検査
    77,000円
  • TRIO検査
    187,000円

※料金は全て税込価格です。