生殖補助医療(ART)

生殖補助医療(ART:assisted reproductive technology)は、妊娠を成立させるために卵子や精子、胚を取り扱う治療の総称であり、卵巣から卵子を体外に取り出し(採卵)精子と受精させ(受精)、発育した受精卵を子宮内に戻し(移植)、妊娠の成立を期待する治療法です。
一般不妊治療が無効、両側卵管閉塞、乏精子症、精子無力症、原因不明不妊の場合などに適応となります。

一般不妊治療の妊娠率は1周期あたり10%程度に留まりますが、体外受精では移植1回あたり約30〜40%の妊娠率が期待できます。

当院では、患者様にとってご負担の少ない自然周期・低刺激周期を中心に治療を行っております。

採卵周期

採卵周期には、自然周期・低刺激周期・調整卵巣刺激周期があります。

当院では、患者様にとってご負担の少ない自然周期・低刺激周期を中心に治療を行っております。

完全自然周期

排卵誘発剤などの薬剤は使用せず、自然に発育する卵胞から採卵をします。

月経12日目前後に超音波検査およびホルモン検査を行います。卵胞の大きさが18mm以上、血中エストロゲン値が卵胞1個あたり250pgに達したら、卵胞の発育が十分と判断し、GnRHアゴニスト点鼻薬(スプレキュア、ブセレリン)を使用して卵子を成熟させ、約34~36時間後に採卵を行います。

低刺激周期

最小限の排卵誘発剤(内服薬:クロミフェン、レトロゾール)を使用し、複数個の卵胞を発育させます。

月経3日目までに超音波検査とホルモン検査を行います。卵胞の状態、ホルモン値、年齢、卵巣の予備能力、今までの治療経過などを総合的に評価し、その周期に適した治療プランをご提案いたします。

月経3日目頃より排卵誘発剤の内服を開始します。完全自然周期と同じように卵胞が十分に発育したら、GnRHアゴニスト点鼻薬を使用して卵子を成熟させ、約34~36時間後に採卵を行います。

この治療は薬剤による負担が比較的少なく、心と体に優しい治療です。

調節卵巣刺激周期

排卵誘発剤(内服薬:クロミフェン、レトロゾール、剤注薬:FSH製剤など)を使用し、たくさんの卵胞を発育させます。

月経3日目前後に超音波検査とホルモン検査を行い、卵胞の状態やホルモン値、年齢、卵巣の予備能力、今までの治療経過などを総合的に評価し、その周期に適した治療プランをご提案いたします。

月経3日目頃より内服の排卵誘発剤を開始します。月経8日目頃に卵胞の大きさやホルモン値を確認し、必要に応じて注射薬を併用します。卵胞が十分に発育したら、GnRHアゴニスト点鼻薬より卵子を成熟させ、約34~36時間後に採卵します。

複数の卵子を採取できますが、卵巣への負担や卵巣過剰刺激症候群(OHSS)リスクがあります。

採卵

採卵術は、院内のオペ室で行います。
経腟超音波で卵巣を確認しながら、膣壁から大きく成長した卵胞を穿刺します。卵胞液とともに卵子を吸引し採取します。

当院では、従来の採卵針の約半分の太さ(21または22ゲージ=採血検査の針と同様の太さ)の採卵針を使用しております。また、針の先端部分の刃は特殊な方法で加工されており、組織へのダメージを最小限に抑えるように工夫されています。この採卵針による痛みは軽度であるため、無麻酔下でも採卵を行うことができます。体に大きな負担をかけず、通常は5~10分程度で採卵が終了します。

採卵終了後はリカバリールームで15分程度お休みいただき、当日ご帰宅いただけます。

採精

採卵当日、自宅で採取された精子をご提出いただくか、院内の採精室で精液を採取していただきます。
個人差はありますが、採精前には3~5日程度の禁欲期間を設けることをおすすめいたします。

受精

採卵した卵子と採精した精子を出会わせ、受精をさせることを「媒精」といいます。
媒精には主に通常の体外受精(ふりかけ法)と顕微受精があり、複数卵子が採れた場合は体外受精と顕微授精の両方行うスプリット法もご案内しております。

年齢や採卵数、精子の状態により適切な媒精方法を検討します。どの方法で受精させるか迷われるかと思いますが、医師、培養士から個室で丁寧に説明させていただきますのでご安心ください。
患者様のご希望も伺いながら納得して治療が進められるよう努めてまいります。気になることがあればお気軽にご相談ください。

体外受精(ふりかけ法)

通常の体外受精(ふりかけ法・Conventional IVF)は、卵子に多数の精子をふりかけて一緒に培養する方法です。精子が自力で卵子に到達し、より自然な状態で受精するのを待ちます。

この方法のメリットは卵子への刺激が最小限で、より自然に近い状態で受精することです。
デメリットは精子が卵子へ進入できず未受精となることや、複数の精子が卵子へ進入し多精子受精になる可能性があることです。

施行対象は回収した卵子が成熟しており、かつ良好な運動精子が回収できている方になります。

顕微授精(ICSI)

顕微授精(ICSI:Intracytoplasmic Sperm Injection)とは、1個の運動良好精子を選別し、特殊なガラス針を用いて直接卵子の中に注入する方法です。

この方法のメリットは確実に卵子の中に精子を注入するので、受精率が安定して高めであることです。
デメリットは針を刺すことで卵子へストレスがかかり、場合によっては卵子が変性する可能性があります。また、顕微授精施行料金が別途発生します。

施行対象は、以下のいずれかに当てはまる方です。
1. ふりかけ法で受精率が低い傾向にある方
2. 回収した卵子が未成熟である方
3. 良好精子の回収が難しい方
4. 顕微授精をご希望される方

当院では、先端がフラットな針を用いたICIS(Piezo-ICSI)や、通常より高倍率なレンズで精子を観察し、形態的に良好な精子を選別する卵細胞質内高倍率下精子選択注入法(IMSI:Intracytoplasmic Morphological Sperm Injection=先進医療) を行っています。
詳しくは 顕微授精メニュー をご覧ください。

レスキューICSI

ふりかけ法を行なった後、精子が進入できていないと判断された卵子に対して当日中に救済的に顕微授精を行う方法です。

この方法のメリットはふりかけ法による未受精を回避でき、受精する可能性を高めることができることです。
デメリットは採卵から受精までの時間が遅くなることで異常受精になる可能性があります。またICSIを行なった場合別途料金が発生します。

胚移植

体外で受精、培養した胚を子宮内に戻すことを胚移植といいます。凍結した胚を融解して戻す「凍結融解胚移植」と、凍結せずに戻す「新鮮胚移植」があります。

胚移植は、柔らかく細い移植用カテーテルを用い、経腟超音波で子宮内腔を確認しながら胚を子宮内腔に挿入します。当院では多胎(双子など)を予防するために移植する胚は原則1個としています。
従来の経腹超音波法と比べ、経腟超音波では移植すべき子宮内腔の位置がより鮮明に確認できるため、最適な位置に移植を行うことが可能です。胚移植は5~10分で終了し、痛みはほとんどありません。数分間の安静後に帰宅していただきます。

新鮮胚移植

採卵後に受精、培養した胚を凍結せずに採卵と同じ周期に胚移植を行います。採卵して2〜3日後に行う新鮮分割胚移植と、採卵して5日後に行う新鮮胚盤胞移植があります。

凍結融解胚移植

採卵周期に、子宮内膜が薄くなり移植しても着床する可能性が低いと考えられる場合や、卵巣過剰刺激症候群が発生した場合、採卵周期に複数の受精卵が得られた場合などには、次周期以降に移植ができるように胚を凍結保存しておきます。
希望する周期に、自然周期、レトロゾール周期もしくはホルモン補充周期により子宮内膜を厚くし、子宮内環境を整えてから胚を融解し、移植を行います。

詳しくは下記の移植周期をご参照ください。

移植周期

移植周期には、自然周期・レトロゾール周期・ホルモン補充周期があります。

自然周期

排卵誘発剤を使わず、自然な排卵日を確認して胚移植を行う方法です。
自然に卵胞が発育し、排卵後もホルモンバランスが安定している方が対象となる胚移植方法です。

月経12日目前後に超音波検査およびホルモン検査を行います。卵胞の大きさが18mm以上、血中エストロゲン値が卵胞1個あたり250pgに達したら、卵胞の発育が十分と判断し、GnRHアゴニスト点鼻薬(スプレキュア、ブセレリン)を使用して卵子を成熟させ、排卵させます。
排卵2日後に分割胚、排卵5日後に胚盤胞の移植を行います。

レトロゾール周期

排卵誘発剤(レトロゾール)を使用し、排卵を促したのち胚移植を行う方法です。

レトロゾールは子宮内膜を薄くしてしまう副作用はないため、移植周期にも使用することができます。自然に卵胞が発育しない、多嚢胞性卵巣症候群で月経周期が長い、黄体機能低下しているなどの方が適応となる胚移植方法です。

月経3日目前後からレトロゾールを5日間内服し、自然周期と同様に卵胞が十分に発育したら、GnRHアゴニスト点鼻薬を使用し卵子を成熟させ、排卵させます。
排卵2日後に分割胚、排卵5日後に胚盤胞の移植を行います。

ホルモン補充周期

卵巣機能低下による排卵障害、またはホルモン環境が不安定の方は、ホルモン補充周期が適応となります。
エストロゲン(内服または貼り薬)や黄体ホルモン(内服または膣錠)などのホルモン剤を用いて、自然周期に近いホルモン動態と着床しやすい子宮内膜を作ります。

月経3日目前後からエストロゲン補充を開始します。月経12日目前後に超音波検査で子宮内膜が厚くなったことを確認したら、黄体ホルモンを開始します。黄体ホルモン開始から2日後に分割胚、5日後に胚盤胞の移植を行います。

妊娠判定

胚移植後は、胚が正常に着床、発育していくことを確認していきます。
胚盤胞移植では約1週間後に、分割胚移植では約10日後に採血検査を行い、血中hCGが陽性であれば、着床していると確認できます。
その後1~2週間おきに超音波検査を行い、妊娠5週前後に子宮内に胎嚢を確認、妊娠7週前後で胎児心拍を確認、妊娠9週前後まで胎児の成長を確認できれば、ご卒業となります。

料金

保険診療
受精費用
  • 体外受精(ふりかけ法)
    12,600円
  • 顕微授精
    1個
    14,400円
    2-5個
    20,400円
    6-9個
    30,000円
    10個以上
    38,400円
  • Split(両方実施)
    顕微授精代+体外受精代の半額
  • カルシウムイオノファ(卵子活性化)
    3,000円
  • 先進医療
    Zymot(ザイモート)
    25,000円
    PICSI
    20,000円
    IMSI
    20,000円

※料金は全て税込価格です。

自費診療(自由診療)
受精費用
  • 精子調整料
    88,000円
  • 体外受精(ふりかけ法)
    ※精子調整料に含む
  • 顕微授精(ICSI)
    1個
    33,000円
    2-3個
    +22,000円/個
    4個以上
    +11,000円/個
  • アシステッドハッチング
    22,000円
  • 高濃度ヒアルロン酸含有培養液
    22,000円
  • Zymot(ザイモート)
    25,300円
  • PICSI
    22,000円
  • IMSI
    22,000円
  • Piezo(ピエゾ)-ICSI
    22,000円
  • カルシウムイオノファ(卵子活性化)
    33,000円

※料金は全て税込価格です。