コラム

さまざまな「受精」

「受精」とは、卵子と精子が融合して一つの細胞(受精卵)になることです。
この生命のはじまりの第一歩となる「受精」にはさまざまな種類があることをご存じでしょうか?
今回は不妊治療にとって欠かせない「受精」について詳しくお話いたします。

「受精」はどう判断される?

「核」とは遺伝子情報が含まれている部分をいい、卵子と精子にもそれぞれ含まれています。

体外受精では、卵子と精子を出合わせ(=媒精する)、卵子のなかに精子が飛び込む(する受精する)と、卵子由来の「核」と精子由来の「核」は卵子のなかで癒合を始めます。
2つの「核」は癒合する前の「前核(PN : pronuclear)」の状態で一度出現し、媒精翌日に観察できるようになるため、この時点で受精卵を観察することにより、どのように受精されたか判断することができます。

「前核(PN : pronuclear)」の数の違いにより、受精は正常受精・異常受精・多精子受精に分けられます。
このうち培養継続することができるのは正常受精のみで、他は残念ながら染色体異常が考えられるため培養を中止します。

正常受精

前核が2つの場合、正常受精と判断されます(2PN)。
正常受精とは、父親の遺伝情報を持った精子由来の前核1つと、母親の遺伝情報を持った卵子由来の前核1つの、合計2つの前核が確認出来る状態です。この2つの核はやがて融合して1つの核となり、成長していきます。

異常受精・多精子受精

異常受精や多精子受精の胚は染色体数の異常が考えられ、正常な発育が望めないため培養を中止にします。

前核が1つの場合は異常受精となります(1PN)。
精子か卵子どちらか由来の核しか確認できないということは、もう片方が何らかの原因で核を作ることができなかったか、精子が入っていないのに卵子だけで核を作ってしまう「単為発生」という現象の可能性もあります。片方由来の前核しか持たない半数体(染色体を正常の半分しか持たないもの)であることから、染色体数が異常な受精となります。

② 顕微授精(ICSI)を実施し、前核が3つ以上 の場合は異常受精となります(3PN)。
顕微授精で1つの精子を授精させたにも関わらず、前核が3つ以上確認できる場合、受精後の卵子の核分裂に異常(第2極体の放出不全など)が起こっている可能性があります。つまり、父親の遺伝子情報を持った精子由来の前核1つに対して、母親の遺伝子情報を持った卵子由来の前核が2つ出現しており、3倍体(染色体が正常よりも多いもの)という染色体数が異常な受精となります。

③ ふりかけ法(c-IVF)を実施し、前核が3つ以上 の場合は多精子受精となります(3PN)。
多精子受精とは、ふりかけ法の際に1つの卵子に対して複数の精子が侵入することで生じる受精のことです。通常、1匹の精子が卵子内へ入ると、卵子側がそれ以上の精子が入らないようにブロックする反応を起こします。そのブロックする反応が間に合わないと、多精子受精が起きてしまいます。

未受精

前核が無い 場合は残念ながら受精できなかった卵子です(0PN)。
ふりかけ法(c-IVF)での未受精は、精子が卵子の中に入らなかったことが考えられます。この場合次回はレスキューICSI ※ をすることで同様のケースは避けることができます。
※ レスキューICSIとは、精子が進入できていないと判断された卵子に対して、ふりかけ法を行なった当日中に救済的に顕微授精(ICSI)を行う方法です。これによりふりかけ法による不受精を回避し、受精する可能性を高めます。(別途費用がかかります。)

顕微授精(ICSI)での未受精は、精子が卵子の中に入っても上手く反応を起こすことが出来なかったことが考えられます。これが続く場合は受精障害の可能性が考えられる為、卵子活性化処理 ※ をご提案させていただくことがあります。
※ 卵子活性化処理とは、本来受精により卵子内で見られる活性化機序(カルシウムイオン濃度の上昇など)を人為的に起こすための処理です。(別途費用がかかります。)

当院での受精観察

当院では タイムラプスインキュベーター を全症例に採用しており、現在の胚の状況だけでなく時間を遡って胚の観察を行うことができます。これにより前核の出現を見逃すことなく精度の高い受精判定が可能となっております。
培養室でも正常受精率が上がるよう工夫や改善を常に行っており、患者様がより安心して不妊治療に臨んでいただけるよう努めております。何かご質問があれば、スタッフまで気軽にお尋ね下さい。